メナーデのドイツ映画八十八ケ所巡礼

メナーデとは酒と狂乱の神ディオニュソスを崇める巫女のことです。本ブログではドイツ映画を中心に一人のメナーデ(男ですが)が映画について語ります。独断に満ちていますが、基本冷静です(たまにメナーデらしく狂乱)。まずは88本を目指していきます。最近は止まっていましたが、気が向いたときに書いております。

全編ワンショット138分映画『ヴィクトリア』 おすすめ作品。ネタバレなし。

『ヴィクトリア』原題 „Victoria“

2015年、ドイツ映画。ゼバスティアン・シッパー監督、ライア・コスタ、フレデリック・ラウ主演。

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ワンカット映画といえば『カメラを止めるな』(全編ではないけど)、最近だとワンショットにみえる『1917』も話題。日本だとあまり知名度がないが、2015年のこの『ヴィクトリア』もドイツでは大ヒットで、ドイツ映画賞6部門で受賞など評価も高いです。138分(実質134分くらい)ワンショットですごいです。

 

ワンショット映画

とりあえず最初からカメラを回しっぱなしで最後までいってしまいます。話の筋と構図を考えた監督はじめ製作陣とカメラマン、そして役者が素直にすごい。セリフなどはあまり決めていないようで12ページしかない。*1 何回くらい通しでやったのか、途方もない感じがするが、役者はとにかくすごい。「長回しでダラダラ」というのとは違っていて、日常の割と普通にありそうな時間の流れ方から急に濃密になっていく感覚が緊張感を高めることにつながっている。イモを食うシーンを長回しで撮るみたいな「アート映画」ではなく、実際にこんな一晩だったらという緊張感を観客も楽しめる。逆に言うとカットを入れるなら、別に撮らなくてもいい映画。なので、製作陣の自己満みたいなところもないではないと思うが、映画好きなら一緒に楽しむべきでしょう。

 

個人的評価 8/10 

製作面などは別にして、鑑賞側としては個人的には10点満点で8点くらい。話としては前半は現在のヨーロッパの感じがわかると面白い話。ここが楽しめると、中盤までのゆっくりした展開からの急転がとてもスリリングなはず。後半は尺の関係などもあって少し先が見えるかも。

 

 

監督ゼバスティアン・シッパー

個人的には本作で初めて知った。役者としても活動していて『ルートヴィヒ』(2012)で晩年のルートヴィヒ二世役で出るなどしている。他のもチェックしてみたい監督。ドイツ映画賞監督賞受賞。

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出演の役者

・主役のライア・コスタはとても自然な演技。ドイツ映画賞主演女優賞受賞。スペインではテレビでも人気らしい。

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ヴィクトリア役:ライア・コスタ。役柄同様スペイン出身。

 

 

フレデリック・ラウがゾンネ役で出演。

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ゾンネは太陽の意味。

フレデリック・ラウは「独裁の実験」にはまるヤバい生徒を演じた『ウェイヴ』でドイツ映画賞助演男優賞をとっているが、『ヴィクトリア』でも受賞。

「独裁」の実験 『ザ・ウェイヴ』(ドイツ映画) スリラー好きでない人にむしろオススメ - メナーデのドイツ映画八十八ケ所巡礼

 

・『希望の灯』(2018)で主演俳優賞を獲ったフランツ・ロゴフスキも出演。本作でも好演。

 

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ロゴフスキが「ボクサー」役。ボクサーは名前。

 

 

楽しむための予備知識 

内容については、ワンショット映画だという情報以外はあまりなしで見た方が面白い作品なので、楽しむために必要な情報などを少しだけ書きます。

 

舞台は現代ベルリン

映画でも出てくるがベルリンは「多重文化社会」である。ドイツは、少し前に難民の流入・受け入れが話題になったが、難民以前にもながく移民や外国人労働者を受け入れてきた。

労働者は定職があれば社会福祉はドイツ人と同じように得られるので、専門職につく能力があれば問題なく暮らしていける。専門職でなくとも定職が得られればと、多くの人が仕事を求めてベルリンなどの大都市へやってくる。トルコや東欧だけでなく南欧、スペインなどからもやってくる。スペインは失業率が高く、賃金も安い。

ドイツは資格社会で例えばウェイターなどでも職業専門学校で認定されているのといないのでは給料が変わってくる。教育からドロップアウトして何の技術も資格もたない場合はなかなか厳しい。

『ヴィクトリア』に出てくる人物たちは、基本的に何の資格も「もたざる人々」である。厳密に言うと、ヴィクトリアだけは少し違って、多くの努力を積み重ねたが、それがフイになっている。いずれにせよ、現在は「何ももたない」でベルリンにいる。ヴィクトリアが知り合うゾンネたちは、地元ベルリン生まれだがドロップアウト組である。

 

前半の展開はこうした背景を知っていると、それ自体興味ぶかく見られる。

 

ドイツ人と英語

ドイツ人は英語はとても得意である。小学校、中学校で習うだけでけっこう話せる。特に都市部の若者は外国人には英語で話すのが当たり前な感じである。学がなくても簡単な英語は使える。

 

ドイツの最低賃金

業種ごとに異なるが、映画公開年の2015年では、どの地域どの業種でも最低8.5ユーロ(120円換算だと8.5×120=1020円)。外食など以外は物価は日本より気持安い。

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時給4ユーロは違法。

 

U-Nextで見られます。

 

ちなみに『カメラを止めるな』も視聴可能です。全然違う映画ですが。