ちょっとズレた人たちと過ごす一日の足跡・・・『コーヒーをめぐる冒険』。モノクロでオシャレ風だが、話はしょっぱくてオススメ。
2012年、ドイツ映画。原題 „oh boy“ (『なんてこった』『やれやれ』という感じか)。ヤン・オーレ・ゲルスター監督、トム・シリング主演。この記事では簡単に映画について紹介。
映画概要
画面はモノクロ、かかる音楽はゆったりしたモダンなジャズ。基本的な雰囲気はオシャレな映画である。よく比べられるのはジム・ジャームッシュ作品。ともかく時間は90分を切っているので、まず気軽に見られる。
一人のやや疲れた青年ニコが、恋人とすれ違いコーヒーを飲み損ねる場面から始まる。この青年のついていない一日を切り取った映画である。ニコを演じるのは背の低さと甘いマスクがトレード・マークのトム・シリング。
映画ではニコが、その辺にいそうだが、一皮むくと一風変わった人間たちに遭遇していく。
ちょっとズレた人たちとの遭遇
舞台は現代のベルリンで街からの移動はないが、街の中を移動するロード・ムービー風のつくり。場面が映るとそのたびにちょっとズレた人間に出くわす。彼らは、現実にいても特におかしくはないが、少しだけ「常識」をはずれて、主人公のニコに踏み込んでくる。過度にプライベートな質問をしたり、過度にセンシティヴな話を告白しだしたり、普通だまっているような偏見を吐露したり・・・。ニコがちょっと気だるそうだが、人が良さそうな、話を聞いてくれそうな感じなので、あまり違和感がないが、皆少しおかしい。友人のマッツェもなかなか変わり者である。
ほろ苦い笑い
オシャレな雰囲気とのミックスで露悪趣味な感じはないし、適度に笑える(苦笑が多いが普通に笑えるところも何箇所か)と同時に、ほろ苦い。変な人々や変な状況は、バカにして笑うためにあるのではなく、それを契機にニコが自分を少し見つめ直すきっかけとして配置されている(ように受けて取れる)。
同年代だけでなく中年、老年の人間との接触もある。途中マッツェの友人の売人少年の家にいる少年の祖母がとても印象的。若者だけの映画ではないので、幅広い人が見れます(若すぎる人はあんまり面白くないと思う)。
全てほどほどなのが、心地よい。とにかくちょっと時間があるときにコーヒーでも入れながら、あるいは最近は減ったミニ・シネマにぶらっと入って観たい映画である。
おまけ情報
邦題の『コーヒーをめぐる冒険』は、そんなに意味はないが、コーヒーが映画を貫く一本の糸にはなっている。
予備知識は特になくても観られる映画だが、二点だけ情報。
・ドイツでは電車・地下鉄で改札がない。切符や定期などなくても乗れるが、無賃乗車がばれると50ユーロ前後の罰金を払わないといけない。
・「水晶の夜」事件 1938年11月、ナチス政権下でユダヤ人商店やシナゴーグ(ユダヤ教の教会)の襲撃事件が起こった(主にナチスの「突撃隊」による)。割れたガラスが水晶のように輝いていたと、ゲッベルスが言ったとされることからこの名前でよばれる。
2020年2月現在U-Nextで配信中。
監督ヤン・オーレ・ゲルスターについて
1978年生まれで、この映画は映画学校の卒業制作で、予算がどうやって賄われたのかは不明だが、額は300000Euroとのこと(3600万円くらい)。4日で撮影。ゲルスターはこの映画でいきなり多数の映画賞を受賞し、一躍有名になった。2019年には再びトム・シリングと組んで『ララ』を撮っている。こちらも評価されている。現在まで日本未公開。情報はWikipediaドイツ語版参照。
俳優トム・シリングについて
本作で注目されたが、ヒトラーを演じた『わが闘争』など、それ以前も多くの作品に出演。2014年のドイツでの大ヒット作『ピエロがお前を嘲笑う』でさらに躍進。本作はハリウッドでリメイクされる予定。過去記事もご参照を。
その他の俳優について 二人紹介
一人目 隣人役:ユストゥス・フォン・ドホナーニ
『エス』での豹変する看守役が印象的な役者は本作では上の階のおじさん役。
『ヒトラー最期の12日間』では飲んだくれの将校。どれも似合う。
二人目 不良少年役:フレデリック・ラウ
ニコたちに軽くからんでくる不良少年役。『ウェイヴ』では、クラスの片隅にいたが、独裁実験に歓喜する少年を演じて、ドイツ映画賞助演俳優賞をとっている。2015年の『ヴィクトリア』でドイツ映画賞主演俳優賞を取るなど活躍中。味のある顔で役の幅が広い。本作でもチョイ役ながらイケてない不良を好演。『ウェイヴ』については過去記事もどうぞ。
『ちいさな独裁者』でもかなりヤバイやつを演じきっています。
他の役者も良い感じです。