メナーデのドイツ映画八十八ケ所巡礼

メナーデとは酒と狂乱の神ディオニュソスを崇める巫女のことです。本ブログではドイツ映画を中心に一人のメナーデ(男ですが)が映画について語ります。独断に満ちていますが、基本冷静です(たまにメナーデらしく狂乱)。まずは88本を目指していきます。最近は止まっていましたが、気が向いたときに書いております。

『コリーニ事件』ドイツ映画(2019年) 良作

2019年ドイツ映画 日本では2020年劇場公開 良作

collini-movie.com

 

劇場で2回見た(1回目は途中で尿意が我慢できずに1、2分見逃したのもあって)。

クライマックスの法廷劇の展開のための布石が色々置かれる前半はやや展開が重いが、後半のドラマの展開には引き込まれる。

↓予告編

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ストーリー(ネタバレしない程度に)

主人公はドイツの弁護士カスパー・ライネン。彼は生粋のドイツ人ではなく、トルコ系。ドイツではトルコ系の人々は移民(かつては「ゲスト労働者」と呼ばれた)とその子孫として多く居住している。典型的イメージとしては、彼らは、ブルーカラーか、ケバブなどの販売者、トルコ人向けの商店、タクシーの運転手などを職業としている。この映画ではトルコ系の主人公ライネンは新人弁護士。

ライネンが弁護士になれたのは、富裕なドイツ人のサポートがあったからだった。彼が弁護士となって最初の仕事は、彼を助けてくれたこの富裕なドイツ人を殺した犯人(イタリア系)の弁護だった・・・というところから映画は始まる。

 

恩人を殺した犯人の弁護を、そうとは知らずに引き受けたライネンは葛藤はありつつも、弁護士として関わろうと決める。前半は、このライネンの葛藤、検察側に立つかつての教師とのやりとりなどが繰り広げられる。この映画は要素は割と複雑で、法廷劇として、法概念が重要になる部分と、職業人としての立場と個人の生い立ちの間で繰り広げられるライネンの葛藤と、事件の被疑者であるコリーニの過去が入り混じっている。

 

前半はライネンの葛藤と、法廷劇の布石が色々と張り巡らされる。ここはやや地味な展開だが、よく見ると興味深い描写も多い。後半は、法廷での弁論が進むのと同時に、コリーニがなぜ、ライネンの恩人を殺したのかという秘密が、第二次大戦中の昔にまで遡って明らかにされていく。コリーニはナチス・ドイツ占領下のイタリアで生まれそだっていた。イタリアとドイツは当初同盟国だったが、イタリアが降伏後はドイツはイタリアに攻め入っていた。コリーニはこの中で育ち、ある事件に深く巻き込まれる。かつての事件と、現在の事件が結びついていくところ、その秘密の結び目が明らかになるところが本作のドラマ的なクライマックスである。

 

ラストのシーンと合わせて、観客の心を揺さぶる仕上がりになっている。法廷劇のところは、必ずしも簡単ではなく、誰でもスッキリ理解できるものではないが、過去と現在を結ぶドラマが感情に訴えるものになっているために、誰でも感動できる作りになっている。このあたりのバランスがとても良い映画である。

原作は未読なので、比較できないが、映画としてはうまくまとまっていると思う。あえて言えば、前半で取り上げられた主人公の弁護士ライネンの心理が、後半ではほとんどプロフェッショナルな弁護士として出来上がっていて、彼のドラマがほとんどどこかへいってしまっている点がやや残念かと思う。とは言え、全体としてみての出来を考えるとそれもあまり問題ではないだろう。

 

役者

主人公を演じるのはチュニジアオーストリア人であるエリヤス・エンバレク(ムバレク)。

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エリヤス・エンバレクは1982年生まれ(写真は2016年)。ドイツ語版ウィキペディアより。

この人は若い頃からドイツ映画に出ていて、大抵トルコ系で、タフかつセクシーな若者役が多かった。本作でもトルコ系だが、「トルコ系にも関わらずインテリ」という設定。本作で彼のキャリアが一歩上に行った感がある。

 

殺された恩人の娘で、ライネンの恋人(と言っていいか微妙だが)はアレクサンドラ・ララ・マリアが演じる。

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1978年ルーマニア生まれ。父はルーマニアの代表的演劇人だったが、政治的理由で子供の頃ドイツに移住。主にドイツで活躍。『ヒトラー最後の13日間』が出世作で、以後世界で活躍。

 

 

原作は日本でもその筋では比較的有名なドイツの作家シーラッハの同名作品。