メナーデのドイツ映画八十八ケ所巡礼

メナーデはディオニュソスの巫女です。本ブログでは主にドイツ映画を巡礼します。独断に満ちていますが、冷静を心がけます(たまに狂乱)。まずは88本を目指していきます。

魔女狩り VS 醸し出されるフェミニズム ヴィム・ヴェンダース作品ではあまり注目されない『緋文字』(1972年)を見返す。

 1973年、西ドイツ・スペイン映画、原題 „Der Scharlachrote Buchstabe“ (『真紅の文字』)。ヴィム・ヴェンダース監督。ゼンタ・ベルガー主演。

 

緋文字 デジタルニューマスター版 [DVD]

緋文字 デジタルニューマスター版 [DVD]

  • 出版社/メーカー: 東北新社
  • 発売日: 2006/04/21
  • メディア: DVD
 

 

 

1 映画について

アメリカの作家ナサニエル・ホーソーンのゴシック・ロマン『緋文字』を映画化したもの。『緋文字』の舞台は17世紀アメリカ、清教徒の街ボストン。私生児を産んでしまったために、罪人の章の赤い文字をつけて生きることになったヘスター・プリンの良心と苦悩を描く。この作品は1926年のリリアン・ギッシュ主演をはじめ何度も映画化されている。映画批評家出身のヴェンダースは、少なからず気負って作っただろうことが推測される。詳細は調べられていないが、最初の放映がテレビであり、テレビ用映画の依頼仕事かと推測される。

f:id:callmts:20200224212420j:plain

左:ヘスター・プリン(ゼンタ・ベルガー)、右:ヘスターの娘パール(イェラ・ロットレンダー)。

ヴェンダース自身が、自分が語るべきでないものを扱ってしまったことによる「失敗」とみなしている。https://de.wikipedia.org/wiki/Wim_Wenders#cite_note-7

 

それもあってか、次のような副次的なところで語られがちな作品である。

・ハリウッドで活躍して「ヨーロッパのセックス爆弾」と称されたセンタ・バーガー(ゼンタ・ベルガー)の再評価につながった作品。

・ヘスターの娘役ロットレンダーと船員役のフォーグラーの場面から、ヴェンダースに代表作『都会のアリス』の構想のきっかけを与えた作品。

 

f:id:callmts:20200224212659j:plain

フォーグラー(左)とロットレンダー(右)『都会のアリス』より

 

f:id:callmts:20200224212758j:plain

ゼンタ・ベルガーは本作では露出はありませんが、妖艶さは十分。

 個人的にはけっこう好みの作品なのですが、傑作がというとやはりそうは言えないものです。本記事では、何が問題なのかを映画そのものの特徴や見るべき点と合わせて論じます。ネタバレはあまりありません。

 

続きを読む

オーストリアの異色監督 ウルリヒ・ザイドル『パラダイス 愛』

2012年、オーストリア映画。ウルリヒ・ザイドル監督作品。

パラダイス:愛 [DVD]

パラダイス:愛 [DVD]

 

 

ザイドルについて

ウルリヒ・ザイドルオーストリアの映画監督。

オーストリアの普通の人物についてのドキュメンタリー」のような映画をとる。脚本などはあるのだろうが、普通の人の生活を切り取ったような映画をとる。

 

生活の一断面を切り取ったようにみえるシーンの連続でザイドルの映画は成り立つ。説明らしい説明はなされず、見るものに何の画面なのか、人物たちはどんな関係なのかを読み取るよう要求する。なので、多少敷居は高い。また、大きな出来事は起こらない。

f:id:callmts:20200222220838j:plain

主人公の女性には娘がいる。娘は『パラダイス 希望』の主人公。

 

本作『パラダイス 愛』は一人のオーストリアの女性(40-50代くらい?)のケニアでの休暇旅行を追った映画である。題材となるのは「その辺の普通の人」に見えるが、彼女を追うことで、様々なことが見えてくる。

 

中年女性の休暇旅行

この女性は冒頭のシーンから障害者施設か何かで働いていることがわかる。彼女の「休暇旅行」が曲者で、ちょうど日本のオッさんが東南アジアのどっかに春を買いに行くような旅行なのである。主人公の女性は現地で意気投合した同じドイツ系女性たちともりあがる。欧米のおばさんにはけっこう「バイブレーター」の話をする人がいると思う。「何本もってるか」とか、あけっぴろげである。「中年だから性の話をするのはみっともない」というような「常識」はない。この映画にでてくる女性たちもわりとあけっぴろげである。

f:id:callmts:20200223133335j:plain

バーテンをからかう女性たち。
続きを読む

ナチス映画に必ず出てくる・・・「親衛隊(SS)」とは何か? 簡単まとめ

ナチス映画を見ていてよく出てくる「親衛隊 SS」。だいたい極悪役だが、SSとはそもそも何なのか、あまり知られていないと思う。というかあまり知らなかったので調べてみた。

f:id:callmts:20200222192059j:plain

イングロリアス・バスターズ』より、ランダ大佐(SS)

 

「親衛隊 SS」がやっていること。

SSは映画ではユダヤ人狩りや治安維持と称した虐殺のシーンで出てくる。銃火器や警棒をもっており、軍隊のようでもあり警察のようでもある。SSは実際、軍事にも警察にも関わっており、どちらの機能も果たすヌエのような存在である。黒の制服の極悪非道冷酷無比集団である。

 

だが、一応ナチス・ドイツも国家であるとしたら、その中でSSはどう位置付けられるだろうか? 軍とは何が違うのだろうか? 警察とは何が違うのだろうか? ゲシュタポはSSなのか? 本記事では歴史的経緯とともに簡単に整理する。

 

参照本はゲリー・S・グーバー著『ナチス親衛隊』(2000年)である。原著は1978年と古いが、一般向けにまとめられて読みやすい本である。細かい点では誤りがあるかもしれないが、とりあえず大枠を捉えるには十分な内容と判断した。

 

  • 1 SS前史
  • 2 ヒトラー親衛隊の成立
  • 3 親衛隊長ヒムラーによるSS改革
  • 4「 長いナイフの夜」事件 突撃隊を粛清
  • 5 政権樹立後のSS
  • 6 ゲシュタポ
  • 7 武装SS (Waffen-SS)
  • 8 戦争中のSSの行動パターン
  • あらためて簡潔にまとめると。
  • 大物SSの映画出演

 

続きを読む

ちょっとズレた人たちと過ごす一日の足跡・・・『コーヒーをめぐる冒険』。モノクロでオシャレ風だが、話はしょっぱくてオススメ。

2012年、ドイツ映画。原題 „oh boy“ (『なんてこった』『やれやれ』という感じか)。ヤン・オーレ・ゲルスター監督、トム・シリング主演。この記事では簡単に映画について紹介。

コーヒーをめぐる冒険 [DVD]

コーヒーをめぐる冒険 [DVD]

 

 

映画概要

画面はモノクロ、かかる音楽はゆったりしたモダンなジャズ。基本的な雰囲気はオシャレな映画である。よく比べられるのはジム・ジャームッシュ作品。ともかく時間は90分を切っているので、まず気軽に見られる。

 

一人のやや疲れた青年ニコが、恋人とすれ違いコーヒーを飲み損ねる場面から始まる。この青年のついていない一日を切り取った映画である。ニコを演じるのは背の低さと甘いマスクがトレード・マークのトム・シリング。

f:id:callmts:20200221143412j:plain

主人公ニコを演じるトム・シリング。本人ともずれがなさそうな自然な演技。

映画ではニコが、その辺にいそうだが、一皮むくと一風変わった人間たちに遭遇していく。

続きを読む

『顔のないヒトラーたち』・・・アウシュヴィッツ裁判の前史を描く。「死の天使」メンゲレなどのネタや色気もとりいれ、バランスのとれた良作。

2014年、ドイツ映画。原題 „Im Labyrinth des Schweigens“ (『沈黙の迷宮の中で』)

ジュリオ・リッチャレッリ監督、出演:アレクサンダー・フェーリング、アンドレ・シマンスキ、フリーデリーケ・ベヒト。 

顔のないヒトラーたち DVD

顔のないヒトラーたち DVD

  • 出版社/メーカー: TCエンタテインメント
  • 発売日: 2016/05/11
  • メディア: DVD
 

 

映画概要 

戦後西ドイツ、1963年のフランクフルト・アウシュヴィッツ裁判が開かれるまでの過程を描く。実在の人物とフィクションの人物がバランスよく組み合わされている。主演は『ゲーテの恋』で若きゲーテを演じたアレクサンダー・フェーリング。

 

f:id:callmts:20200221112906j:plain

主演のヘーリングは、『ゲーテ』とは対照的に本作では真面目一本の役。映画より。

 

あらすじ

フランクフルト地方検察の若い検事ヨハン・ラートマン(ラドマン)は、新聞記者グニークラが「アウシュヴィッツで働いた元SSが教師をしている」と騒いでいるのに気をとめる。ラートマンは調査の過程で、アウシュヴィッツが「絶滅収容所」だったことを知る。彼はアウシュヴィッツで務めたSS隊員たちの犯罪追求の使命を抱く。上司のフリッツ・バウアーとも協力しラートマンは奔走するが・・・

f:id:callmts:20200221113332j:plain

きっかけは、元SS隊員が小学校教師をしていることを知ったことだった。
続きを読む

人付き合いには不器用な・・・傑作『マーサの幸せレシピ』・・・オススメ映画のポイントを考察。リメイクとの比較あり。

2001年ドイツ映画。原題 „Bella Martha“(ステキなマルタ) 106分。

ザンドラ・ネッテルベック監督、マルティナ・ゲデックセルジオ・カステリット主演

マーサの幸せレシピ [DVD]

マーサの幸せレシピ [DVD]

  • 出版社/メーカー: 東芝デジタルフロンティア
  • 発売日: 2003/05/23
  • メディア: DVD
 

 これは非常に傑作映画。料理の腕はピカイチだが、客を罵ったりと「問題行動」もあり、人付き合いには不器用なシェフ、マルタの話。邦題では英語風にマーサになっているが、ドイツ語ではマルタである。ドイツ語を知らなくてもマルタもしくはマータと聞こえると思う。なので以下マルタで表記。

f:id:callmts:20200219233509j:plain

マルタ、冒頭のシーン。

内気な主人公が次第に心を開いて・・・というような話はよくあるし、本作も基本はそういう話なのだが、男性だけでなく、事故で死んだ姉の娘との間で心が通うまでの過程の描き方が筋が通っていて心を揺さぶる。描写も丁寧で俳優の演技も優れている。監督や主演のマルティナ・ゲデックはドイツ本国でもそれほど知られていたわけではなかったが、本作で注目される。ゲデックと相手役のイタリアの俳優カステリットはドイツ映画賞、およびヨーロッパ映画賞で主演賞を得ている。

映画はアメリカでリメイクされたが、後半が大きく変更されている。

 

以下、作品のポイントを考察していきます。ストーリーもけっこう紹介してしまいますがこれを見ても映画は楽しめると思いますので、未見の方も是非おつきあいを。内容は次のとおりです。

 

  • 映画のポイント 
    • 1 主人公マルタの描き方
    • 2 「食事シーンがない」という暗示
    • 3  姪のリナも食べない
    • 4 遅刻し、厨房で歌うイタリア人
    • 5  マルタ 「・・・べき」の人
    • 6 マリオ 「・・・したい、してほしい」の人
    • 7 リナを介した二人の接近
    • 8 社会との折り合い リナはどうすべきか
  • ドイツ語版の脚本の良さをまとめると
    • 1 マルタが壁から自分で出て行く内容になっている
    • 2 「症状の回復」の話にせず、「自己開示」の賛美をしないところ 
    • 3 ドイツ/イタリアのステレオタイプでわかりやすくなっている。
    • 4 「家族」を決めるのは何かという問いかけがある
  •  主演以外の俳優について
  • リメイクについて
    •  基本的設定はだいたい同じ
    • 大きく違う点 姪の役割:キューピッド
    • 相手役がやや若い

 

 

続きを読む

3歳で成長を止めた子供が見る大人世界・・・『ブリキの太鼓』のエロ・グロ・ナンセンスと歴史の悲哀

ブリキの太鼓』(原題 „Die Blechtrommel“)は1979年の西ドイツ・フランス、ポーランドユーゴスラビア製作の映画。監督はフォルカー・シュレンドルフ。原作はノーベル賞作家ギュンター・グラス

 

ブリキの太鼓 -日本語吹替音声収録コレクターズ版- [Blu-ray]

ブリキの太鼓 -日本語吹替音声収録コレクターズ版- [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: Happinet
  • 発売日: 2020/02/04
  • メディア: Blu-ray
 

 

2020年2月現在U-Nextで視聴可能。

 

カンヌ映画祭パルム・ドール賞を獲った名作であるが、歴史的背景など多少知らないと、ピンとこないかもしれない映画である。多少知っているとのんびりと噛み締められるので、本記事では楽しむための基礎情報をまとめる。

 

奇抜な設定。

語り手オスカル・マツェラートは出産時にすでに意識明瞭で、胎内に戻ろうと思ったが、3歳になったら「ブリキの太鼓をプレゼントだ」との言葉に惹かれて生きてみようと思う。3歳になったオスカルは周りの大人たちの様子をみて、もう成長をやめようと決意し、自ら階段から転落する。成長をやめたオスカルは、ある種傍観者として周囲を眺める存在となる。いつまでも小さいままのオスカルからみた、マツェラート家の物語が語られる。時代はナチスの足音も響きだす1920年代、場所は、もとドイツだった自由市ダンツィヒである。

f:id:callmts:20200219113632j:plain

オスカルは歴史の「観客」であることを選ぶ。映画より。

オスカルの語りも面白いが、原作を活かしたのだろう、人物たちの台詞は、八百屋の売り文句一つとってもなかなかシャレが効いていて面白い。

 

続きを読む