内田樹にそそのかされて 『仁義なき戦い』シリーズ一気見
1 辺境ラジオを聞いて
作業のお供に何か聞こうと思って久々に「辺境ラジオ」を聞いた。
このポッドキャストページのチープな感じが和む作りだが、youtubeの方が自由に止めたりできて利用しやすい。
聞いたのは2020年1月の放送。正月に忠臣蔵をみたくなるという話から、内田樹が忠臣蔵の核にあるのが、大石内蔵助という「ゼロ記号」であるという議論を展開。何を考えているかわからない、内容としてはゼロの存在が、全体を展開させる中心にある構造(みたいな話)が特徴であるという。さらに『仁義なき戦い』も同じで、ここではゼロ記号は金子信雄演じる「山守」がゼロ記号。ほんまかいなと思いつつも、内田樹の議論はたまにものすごい自分に響くので騙されたと思って確認することにした。
と言っても内田樹の本はそんなに読んだことはなくて、『寝ながら読める構造主義』橋本治との対談本、『私家版ユダヤ論』くらいのような気がする。読んだ数は少ないが、『先生はえらい』の論理の明快さと腑に落ちる感じが自分としてはとても印象的でそれ以来一目置いている。この本は、本屋で立ち読みしだしたら止まらなくなって読破してしまった。
『仁義なき』のゼロ記号解釈は、結論から言うと、あんまり面白くない解釈だった。それで「仁義なき」の核心がわかるようなものではない。
野口整体の体癖論をポップにアレンジ。まあまあ面白くて、体癖論の本質を歪めているようでもない。
辺境ラジオは司会を務めるアナウンサーの西さんもしっかりしていて、名越が暴走キャラで勝手なことばかり言っているような程で進む。内田樹の方が西さんに尊重されているので、お説は内田ベースで進むが、名越の方が真っ当なときも結構多いような印象も。
2『 仁義なき戦い』シリーズ
内田樹の議論はさておき、話を聞いていてみたくなったので、『仁義なき戦い』シリーズをU-nextで見ることに。U-Nextは昔無料会員だった時に、毎日一本(以上)見ると決めて、結構みていた。最近「リトライキャンペーン」でまた1月無料ということで、これを利用して『仁義なき戦い』シリーズを見た(貧乏くさくて恐縮です)。
第1作だけはだいぶ昔に見ていたので、第2作目から。
シリーズ2作目 『仁義なき戦い 広島死闘編』
オススメ度4/5
Prime Videoでも見れる模様。
第2作『仁義なき戦い 広島死闘編』はスピンオフ的話で菅原文太はやや脇役。北大路欣也が主役で千葉真一が敵役。内田・名越の話で、名越氏が北大路欣也の若い頃がいいと力説していたが、確かに良い。シリーズを通してだが、親分ではなく鉄砲玉になる下っ端が死んでいくことへの同情と、戦争での兵士の死が重ねられていて、素朴に涙をそそる演出。葬式の場面での文太のキレっぷりも泣ける。
本作と次作で広能(菅原文太)と共闘する村岡組の若手幹部松永(成田三樹夫)がかっこいい。
シリーズ3作目 『仁義なき戦い 代理戦争』
オススメ度5/5 二度見るべし!
菅原文太は広島県呉市で、鉄くず、廃材などのスクラップでシノギを削っている。元親分で悪辣な山守は広島で大手を振るっていて、文太はこれまでのシリーズで煮え湯をのまされてきた。本作では、戦いの舞台が広がって、神戸の一流ヤクザが広島・呉へと乗り出してくる。
冒頭(終わりだったかも)、冷戦下での代理戦争についてわかりやすいくらいに語られ、映画では神戸の抗争の代理が広島・呉にて繰り広げられる。
登場人物が多くて、人物相関図を作りたくなる群像劇。劇場で一回見るだけだと把握できないだろう。細かいところまでよくできている。
実業ヤクザでヘタレだが野心のあるヤクザ打本(加藤武)が面白い。顔も演技もスネ夫系。場面場面で打本がどう動いていくかを追えると本作は大変面白い。
前作でもいい役で出ていた梅宮辰夫が神戸ヤクザ役で復活(本作ではマユゲがない)。頼りになる兄貴ヤクザ。
松永役の成田三樹夫、仁義に厚いが、背に腹はかえられない的な微妙な立ち位置を好演している。次作以降いなくなっていたのが残念。
小林旭演じる武田は次作以降に本領発揮。山城新伍はいいところがない役。
シリーズを通してだが田中邦衛演じる槇原はいいところがほとんどない。『北の国から』ファンとしてはやや悲しいが、いいところがない役を好演していて面白い。
本作もラストは葬式。2作目以降は、文太の見せ場は葬式か刑務所。
シリーズ4作目 『仁義なき戦い 頂上作戦』
オススメ度5/5 これもプライムビデオで見られる模様。
前作からの続きで、神戸の明石組と神和会の代理戦争がいよいよ本格化する。複雑になるのが、ここに警察が絡んでくる点である。タイトルにある「頂上作戦」は警察のヤクザ封じ作戦の名前で、高度成長の時代でヤクザと警察も今までのような形でのもたれ合いができなくなっている。シリーズ最大の大抗争が繰り広げられるとともに、警察のマークで思うように暴れられないもどかしさも描かれる。結局、金を持っている山守が警察とつながって強いという構図が世知辛い。
役者は大体前作と一緒だが、本作では崩れた山守組を立て直す若手トップの小林旭が大変かっこいい。暴れるのはもっぱら若手で、広能(菅原文太)や武田(小林旭)は、もうドンパチしないが、全体のことを考えてけじめをつけたり、話をつけたりしようとする広能・武田のやり取りは大変見ごたえがある。この二人も、仁義のみではなくて、割とずるい計算もないわけではないというところも描かれていて、死んだり寒い目を見るのは若い鉄砲玉ばかりというシリーズ全体のモティーフと響きあう。
小林旭はサングラスがめちゃめちゃ似合っていて、最近(2000年代以降)の吉川晃司のような雰囲気を感じた。
松方弘樹の属する組「義西会」が、仁義に厚い組なのだが、悲しいことになる。
組長が同窓会で撃たれるのと、松方の狂犬っぷりと病で咳をしている時のギャップが心の琴線に触れてしまう。
本作のラストは葬式ではなく刑務所。
元々は本作で完結という予定だったようで、オリジナルの脚本家は本作を最後に降板。
シリーズラスト『仁義なき戦い 完結編』
オススメ度4.5/5
ざっくりいうと広能がヤクザをやめるまでの顛末が描かれる。広能は刑務所にいる時間が長く、実質的内容は前作からのライバル役である武田(小林明)が組を政治結社「天政会」(右翼)に変えて、時代を生き延びようとする部分にある。
映画全体の実質的主役は再び北大路欣也。武田が刑務所に入っている間のトップを務める、組のホープ役。広島死闘編では鉄砲玉だったが、本作ではキリッとした凄みを持つ若手トップ役(身体も出来上がっている)。欲しいものは手に入れるタイプでありながら、仁義は通すところも残っていて、憎めない役。
小林旭は引き続きカッコいい。北大路欣也の背後に引くことで大物感を増している。前作に引き続き、終盤での菅原文太とのやりとりが見せ場。山守以外は、金満実業系ヤクザがいなくて、下衆なコミカルさは減少している。目立つのは北大路欣也と対立する宍戸錠、喧嘩したがりの松方弘樹(前作とはタイプが違うが濃いキャラ)あたり。群像劇としては前作、前々作よりは弱いような気がするが十分面白いので必見。
本作も実録物らしいが、これをみて右翼の成り立ちの一つはこういうものだったのかと妙に納得した。
その辺りも含めて色々と興味深く、北大路欣也と小林旭はかっこいいので面白いのだが、田中邦衛始めこれまでの主要人物も死んでいったりして全体に物悲しい(シリーズ全体がそうだが)。
第1作 『仁義なき戦い』
2作目から最後の5作目までを見ながら、例の「パァリアー」で始まるテーマ音楽が鳴るのを待っていたのだが、残念ながら一回も流れなかった。シリーズ通してあのフレーズが流れるのは第1作だけのようで、以後は最初を省いた後の部分が変奏されるのみである。これはちょっと残念だったが、内容的には無しでも全く問題なく面白かった。
とはいえ、やはりあれも聞きたいので、第1作も見てみた。
菅原文太が復員してまだ素朴だった頃から始まる。大きな抗争がないので、後ろの方を見てから見るとスケールは小さいが、仁義が通らない悲しさを伝える点ではストレートでグッとくる。音楽のインパクトもやはり大きい。ということでオススメ度5/5。
毎日一本寝不足になりながら見たが、見てよかったと思えるシリーズでした。
U-NextやAmazon-Primeで見られます。未見の方はぜひ。見た方もまた是非。
内田樹は各10回くらいは見ているとのこと。