メナーデのドイツ映画八十八ケ所巡礼

メナーデとは酒と狂乱の神ディオニュソスを崇める巫女のことです。本ブログではドイツ映画を中心に一人のメナーデ(男ですが)が映画について語ります。独断に満ちていますが、基本冷静です(たまにメナーデらしく狂乱)。まずは88本を目指していきます。最近は止まっていましたが、気が向いたときに書いております。

U-Next31日無料を利用して毎日何を観る? 第18夜〜25夜 『都会のアリス』『さすらい』『消えた声が、その名を呼ぶ』『豚小屋』『ニーチェの馬』『愛のむきだし』ほか

私事で恐縮だが怪我の療養中である。毎日が日曜日ではないが、仕事は抑えめ、移動は最小限、時間はたくさんある。コロナ騒ぎでさらに仕事は控えめになった。

ということでアマゾン・プライムとU-Nextに無料会員登録して色々みていた。U-Nextの方が高いのでこっちを中心に見た。ラインナップも充実。

U-Nextではポイントが必要な映画と見放題映画に分かれている。見放題映画の中から31夜何を見るか考えてみた。現在17夜まで選択済み。本ブログはドイツ映画紹介が趣旨なので、半分以上はドイツ映画を入れるというシバリで選択。

 

現在まで

1『パーマネント・ヴァケーション』2『コーヒーをめぐる冒険』3『トリコロール/白の愛』4『ソウル・キッチン』5『マーサの幸せレシピ』6『浮き草』7『アポロンの地獄』8『ケレル』9『アナザー・カントリー』10『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』11『直撃!地獄拳』『直撃!地獄拳 大逆転』12『小人の饗宴』13『別離』14『ありがとうトニ・エルドマン』15『名もなきアフリカの地で』16『ブリキの太鼓』17『ロゼッタ

 

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本記事では映画の長さとそれに見合うかどうかに焦点をあてて紹介。

 

 

第18夜 『都会のアリス』(ヴィム・ヴェンダース監督作品)西ドイツ 1974年 107分

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ドイツ映画を代表する監督の一人ヴィム・ヴェンダース。1970年代はニュージャーマンシネマの代表者として注目された。80年代以降、アメリカやフランスでも映画を撮っており、現在も現役。

都会のアリス』はヴェンダースの初期ロードムービー3部作の1作目。ロードムービーは長く感じるものが多いように思うが、この作品は比較的コンパクト。

ヴェンダースの初期作品は、主人公自身が目標を失ってさすらうところに主眼があって、社会からの疎外感などをじんわり共感できるところが魅力だが、目標がないだけだと見ている方も途方に暮れがち。『都会のアリス』はアリスの祖母を探すという目的が設定されていて、またアリスとの交流の中で、途方にくれるだけでない部分がたまに閃めくので観た後すがすがしい。最後のシーンが名シーン。

ほどよい長さで見やすい。個人的評価は8.5/10

ヴェンダース作品は、あまりレンタルでもなかったりDVDも高かったりするのでU-Nextお得感は高い。

第19夜 『さすらい』(ヴィム・ヴェンダース監督作品)西ドイツ 1976年 175分 

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前夜に引き続きヴィム・ヴェンダースの映画。初期ロードムービー3部作の3作目で、おそらく一番人気があって評価が高い作品。ただしやたら長い。主人公はリュディガー・フォーグラーで『アリス』と同じだが、こちらの旅の相棒は男。時代からはずれかけた二人の男の自分探しと再生の旅。

ゆるいロードムービーで、緊張感で引っ張るタイプでもないので、いい映画ではあるが3時間集中して観れる人はすごいと思う。緩いが、いいシーンはいっぱいあるので、とにかく観てよかったと思える。

『アリス』などでは音楽と場面がやや食い違って、不安定感を出す形になっているが、『さすらい』は音楽が主人公たちに寄り添う形になっている。テーマ曲がとても琴線に響くブルース・ロックで音楽がかかるだけで泣ける場面が多々あり。時間がある人にオススメ。

詳しくは、過去記事をご参照ください。

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個人的評価は8.5/10 いいシーンはアリスより多いが、いらないように思うとこもあるので同点数で。

 

第20夜 『消えた声が、その名を呼ぶ』(ファティ・アキン監督作品) ドイツ、フランス、イタリア、ロシア、ポーランド、カナダ、トルコ、ヨルダン製作 2015年 138分

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邦題は長いが、原題は„the Cut“で「傷」の意。

監督のファティ・アキンはトルコ系のドイツ人で、若くしてベルリン(「愛より強く」2004年)、カンヌ(『そして私たちは愛に帰る』2007年)、ヴェネツィア(『ソウル・キッチン』2009年)で各賞を受賞。本人の出自もあって、文化間の「越境」や「雑多なものの共存」あるいは「異なるものの摩擦」といった文化と文化の間を積極的に描く監督。

本作は第一次大戦時にオスマン・トルコで起こったアルメニア人虐殺という歴史的モティーフを中心に据えたスケールが大きな作品。ただし虐殺事件そのものがテーマではなく、主人公がバラバラになった家族の生き残り(双子の娘)を探す映画。主人公は虐殺を生き延びるが、喉に「傷」を負って声を失い、家族ともバラバラになる。

前2夜で扱ったヴェンダースロードムービーとは違って、旅の目的は明確。乗り越えるべき課題もその都度明白で眠くなるような映画ではない。一度切断された人生を、残された絆で繋ぎなおそうとする主人公の旅のゆくえから目が離せない。その中で主人公が悪にも手を染めるところが印象的。また困難な中で手を差し伸べてくれる人物たちが魅力的。

 

心に残る映画ではあるが、脳裏に焼き付くようなシーンをもう少し見たかった。音楽はメタリックなギターが効果をもたらしている。個人的評価 8.5/10

ちなみにファティ・アキンの個人的ベストは『愛より強く』で9.5/10

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 ファティ・アキン作品はU-Nextでは5本が見放題。おすすめは『ソウル・キッチン』と本作。

第21夜 結局観れなかった映画①『豚小屋』(ピエル・パオロ・パゾリーニ監督作品) イタリア 1969年 99分

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昔レンタルして見ようと思ったが、内容に入って行けなくてそのままにしていた映画。こういうのはむしろ映画館で儀式として見た方がいいのだろうと思う。今回U-Nextで再挑戦。 

パゾリーニお気に入りの現代と聖書的荒野との往復から始まる。荒野で飢えた放浪者と、ブルジョワの邸宅の往還。『テオレマ』もそうだが、1960年代後半の革命的高揚の雰囲気がわからないので、ブルジョワの(自己)批判はイマイチ入って行けない。『アポロンの地獄』や『王女メディア』は、神話部分が独立しているので、普通に観れるが、物語らしい物語が出てこないのがきつい。荒野で二人の戦士が謎の戦いを繰り広げる場面で挫折。

 

観た範囲だと3/10点。

パゾリーニは『アポロンの地獄』などもU-Nextで見られる。こちらおすすめ。

第21夜 結局観れなかった映画② 『リアリティのダンス』(アレハンドロ・ホドロフスキー監督)チリ、フランス合作 2013年 130分

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『豚小屋』の挫折ついでに、かつて挫折した『リアリティのダンス』の再見を試みる。

2013年頃、一回レンタルして見ようとしたが、途中で脱落。この時一緒に借りた同じくホドロフスキーの『ホーリー・マウンテン』(1973年)は一応全部見た。キッチュなオカルト趣味がインチキくさかったが、そんな時代だったのかと思って興味ぶかくはあった。今回、『リアリティのダンス』がU-Nextにあったのでもう一回チャレンジしたが、以前見たときと感想は変わらず、同じあたりで挫折した。

最初の箴言のような金と意識の話から鼻白むが、これはたぶんホドロフスキーの自伝的映画。強権的でマッチョなスターリン崇拝者の父親に抑圧された自分、なよなよした自分に金髪のカツラを被せて愛した空想過多の母親・・・こういった関係がわかるように作られてはいる。だが、強権的な父親がひたすら強権的なのはいいとして、空想気味の母親のセリフが、たぶん彼女の趣味だったオペラ調で、つねに歌われるという演出がきつい。状況自体結構特殊なのだから、きっちり描けばいいものを、全部比喩的な描き方で、しかもそこに本人の思い入れが入ってくるからつきあっていられない。不具者が出てくるシーンも露悪なのか、差別主義者を告発するのか曖昧で、結局露悪にしか見えない。

32分頃父親が母親を犯すシーンで喘ぎ声がオペラのところで挫折。一応終わり間際にとぶと母親がまだオペラだった。

評価1/10  もう観ない。

第22夜 結局観れなかった映画③ 『ニーチェの馬』 (タル・ベーラ監督)ハンガリー、フランス、スイス、ドイツ製作 2011年 154分

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これは評価はけっこう高いらしい。ベルリン国際映画祭で賞を獲っている。哲学者ニーチェが発狂前後に、鞭打たれる馬に駆け寄って涙したとかしないとかいう、興味をそそるエピソードにインスパイアされたということで見てみる。

開始からしばらく一切会話のない農夫と娘の描写。農夫が帰宅して靴を脱ぎ、ふかしたジャガイモを食べるシーンが延々続く。淡々とした農夫の生活を淡々と描くという趣旨だと思うのだが、ひたすら長い。馬も出てきたが、特に何も起こらない。淡々としすぎの展開に耐えられずに挫折。U-Nextの無料会員期限も切れるので視聴も断念。

イモを食べるシーンはそれなりに興味深いとはいえ、単調さを表現するための単調な場面は、延々見せられる方としては正直きつい。とはいえ、この単調さを通り抜けると事件も起こるらしいので、いずれ暇と機会があれば再チャレンジするかも。

 

観た範囲で2/10点

 

 第22夜 結局観れなかった映画④ 『終わりゆく一日』(トーマス・イムバッハ監督) スイス 2011年 111分 

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 さすが紀伊国屋書店、こんな映画のDVDを発売している。映画というか室内から窓越しに外の景色を撮った映像に、その部屋にかかってきた留守電が重ねられる。これが、おそらく延々続く。劇映画とはかけ離れている。ドキュメンタリーにしても私的すぎる。けっこういろんな人から電話がかかってきていて、おそらく留守電を聞いているうちに部屋の主(監督自身?)のことが浮かび上がったり、浮かび上がらなかったりするんだろう。解説によると15年分の素材を使っているらしい。

もしかしたら面白いこともあるのかもしれないが、ほぼ同じような場面が続くらしいとわかって早々に断念。映画館だったら、意地でも見たかも。

 

見た範囲では 1/10点。仮にこの監督が別にすごい映画を撮っていて、それにノックアウトされたらもう一回チャレンジするかもしれないが、そんなことはおそらくないだろう。 

 

第23夜 『ピエロがお前を嘲笑う』(バラン・ボー・オダー監督) ドイツ 2014年 106分

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 変なアート系はやめて、一気に見れる映画を。監督のバラン・ボー・オダーはスイス生まれの若い監督。本作はドイツでの2作目で、大ヒットした。本作の成功をうけてアメリカでも撮っている。

ハッカー集団が起こした事件を、つかまった犯人が捜査員を前に回顧しているシーンから始まる。青年の成長史、青春映画的な仲間との成り上がりストーリーをはさみつつ、事件に巻き込まれるサスペンス的展開を経て、トリック・トリック・トリックみたいな展開。途中で中断しながら見ようかと思っていたが、予定を変更して最後まで一気に観てしまった。

個人的には青春映画パートが好き。このパートはおそらくドイツの若い観客を意識していてここが弱くて、トリックだけだとヒットしなかったと思われる。

 

スピード感重視だったんだろうが、仲間の描写や最後の方の説明はもう少し丁寧でもよかったのではないかという印象。時間に見合ったドキドキと満足感。8.5/10点

 

過去記事でもう少し詳しく紹介してます。

 

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第24夜 『ヴィクトリア』(ゼバスティアン・シッパー監督)ドイツ 2015年 138分

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これはワンショットで138分ということは聞いていたので、少々身構えて時間もとって見た。ベルリンのクラブで主人公のヴィクトリアがはじけきれない感じでいるところから始まり、地元のうだつのあがらない感じのチンピラと友達になるまったりした展開かと思ったら、急展開していく。もしかして、一歩踏み違えるとこんな夜もあるかも感がなかなかスリリングな映画。長いが一気に見れます。

スペインから来て不本意なヴィクトリアと、ベルリンの地元の不良の交流場面がよいフックになっている。最後の方の展開が少し読めてしまうのが個人的にはちょっと残念。それでもワンショットで全部撮ったことにも敬意を表して8.8/10点。

 

過去記事でもう少し詳しく紹介しています。

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第25夜 『愛のむきだし』(園子温監督作品)日本 2009年 237分

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長いが一気に観てしまう映画といえばこれ。3章立てになっていて、最初の疑似キリスト教的な雰囲気から一転して盗撮修行するに至る展開に笑ってしまうが、ここから謎の決闘シーンに突入して『愛のむきだし』のタイトルが出るところでとてもワクワクしてしまう(ここまででちょうど1時間くらい)。これまで何度か観たが、このタイトルのところまで見ると結局最後まで観てしまう。

『女囚さそり』など、色々元ネタもあって遊び部分がけっこう無駄に入っているが、そのあたりも込みで楽しめる。修行シーンは『直撃! 地獄拳』などのバカ映画系列。途中色々粗いところもあるような気もするが、結局最後のシーンにいたって泣いてしまう。

西島隆弘(AAA)はこの映画でしか観たことがないが、とても役にあっている。満島ひかりはまだ体当たり感が強い。安藤サクラはもう出来上がっている。

9.5/10点

U-Nextで『冷たい熱帯魚』も見放題。グロいですが、こちらもおすすめ。9点。