ゲイの「狂王」の「憧れ」の美しさ 『ルートヴィヒ』 ドイツ名物ノイシュヴアンシュタイン城へ行く前に見る映画
原題 „Ludwig II.“ ルートヴィヒ2世
2012年、ドイツ映画
バイエルン王ルートヴィヒ2世。ディズニーランド城のモデルとして有名なドイツの観光名所ノイシュヴァンシュタイン城を建てた。
時代は19世紀後半、ドイツが近代国家としての統一に向かい、民主主義の動きまで現れるへ中で、彼の王位は時代に取り残された権威になってしまう。セクシャリティーの問題もあって彼の結婚は不幸であり、個人としても王としても望み叶わず、芸術の世界に理想を求めていく。ワーグナーに魅惑され、夢想に耽美する彼は、夢の城の建設ために散財し、時代錯誤な「狂王」と呼ばれ、最後は謎の死を遂げた。
「憧れ」のはかなさ、愚かさ、そして美しさ
映画はこうした過程を過不足なく描き出す。その際に焦点があたるのは、彼の純粋なまでの「憧れ」がたどる経緯である。白鳥のモティーフなど具象的なものと彼の運命を結ぶ手法が成功している。少女漫画のような設定だが、大変切ない。歴史映画としてのスケールは十分で、ワーグナーとの交流や時代錯誤に陥った彼個人の必然性がわかるようにつくられている。客観的には迷惑な夢想家でしかない「狂王」だったが、彼個人が夢を追った理由は観客にわかる。「憧れ」のはかなさ、おろかさ、そして美しさを知る者は、ルートヴィヒを突き放しては見られない映画である。
細めのルートヴィヒ
ルートヴィヒは現実でも若いころは細身のひきしまった美男として人気があった。映画では肖像画などにみられるよりもさらに線の細く、蒼白の気もあるルートヴィヒがみられる。個人的には、とても好みである。王妃や弟など、基本的に華奢で美しい人物が多く、そっち系の方が好きな方は全体に画面を堪能できる。即位前から晩年までの容姿の変化も面白い。
予備知識は特になくても見られる映画。「誰が悪いのでもない」というつくりになっているので、登場人物だれも憎めず、同情と悲しみに浸れる。このあたりも少女漫画チックでよい。ピンときた方はおすすめです。
ルートヴィヒ2世については、名匠ルキノ・ヴィスコンティが1972年に大作を撮っている。
こちらのレヴューや比較はまた別の機会に。