メナーデのドイツ映画八十八ケ所巡礼

メナーデとは酒と狂乱の神ディオニュソスを崇める巫女のことです。本ブログではドイツ映画を中心に一人のメナーデ(男ですが)が映画について語ります。独断に満ちていますが、基本冷静です(たまにメナーデらしく狂乱)。まずは88本を目指していきます。最近は止まっていましたが、気が向いたときに書いております。

初老ドイツ人女性とアラブ系移民の苦悩と愛 ドイツ映画『不安は魂を食い尽くす』

1974年、西ドイツ映画。原題 „Angst essen Seele auf“ 

ニュー・ジャーマン・シネマの旗手ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督作品。初老のドイツ人女性とアラブ系移民(出稼ぎ労働者)の恋と葛藤を描く。原題„Angst essen Seele auf“は、恋人のアラブ人がアラブの諺を話す場面から(人称変化をさせないで„essen“と言ったのをドイツ女性が言い直す)。 映画全体の趣旨とも合致する秀逸なタイトル。

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わかりやすいメロドラマ

ファスビンダーの作品は小難しげな「アート映画」もある。ドイツ人に「ファスビンダーが好き」と言うと、「ああいうのはわけがわからない」的な反応がこれまでの人生で二度ほど返ってきた。『シナのルーレット』や『13回の新月のある年に』などはたしかにわけがわからなかった。ただ、社会学的な階級分析、女性の抑圧、外国人差別、性的マイノリティ、階級差などのテーマが入ってくると、ファスビンダーは俄然わかりやすい描き方、教育的描き方をする。

 

掃除婦というあまり尊敬されない職業かつ初老の主人公が、若いが出稼ぎ労働者のアラブ人という、ドイツ社会では「下」に位置する若者とひょんなことから男女の関係になる。ニュートラルな付き合いかと最初は思うが、やはりヒエラルキーの存在が露わになってくる。アラブ人アリがクスクスを食べたがるが、にべもなく「そんなものは食べない」と答えてしまう。地味ではあるが、決定的な「リスペクトの欠如」が露呈する瞬間が連続する。

ヒエラルキーも一つではない。若さと老いというヒエラルキーではアラブ人の方が優位とか、ドイツ人とは言っても、高級レストランではどう振る舞っていいかわからない(階級文化ヒエラルキー)などが明確に描かれている。

 

こういう問題は現在も解決されていないので、今見てもアクチュアルな映画だと思う。葛藤も踏まえて、最後に歩み寄ろうとするところで終わるのがよい。

こういう映画が基礎教養になってはじめて「多様性」の肯定が進むと思う。若い人に見て欲しい名作。

 

ちなみにファスビンダーの代表作はこれ。これも誰がみても面白いとも思います。敗戦後、復興期の女性が主人公。

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個人的に一番好きなのが『自由の代償』。ファスビンダー自身が主演。

ルンペン・プロレタリアートでゲイの主人公が宝くじを当てるが・・・

階段で隣人が声をかけるシーンが脳裏に焼きつく。

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ファスビンダー作品についてはまた書いていきます。