『666号室』 映画監督観察フィルム
1982年、西ドイツ、フランス合作
ヴィム・ヴェンダース監督作品。出演、ゴダール、スピルバーグ、ファスビンダー、ヘルツォーク、アントニオーニ他の映画監督たち。
ヴィム・ヴェンダースが1982年のカンヌ映画祭に際して、集まった映画監督たちに「映画とは、失われつつある言語で、死にかけている芸術か?」という問いかけを行い、滞在ホテルの666号室にて各人に10分間以内で話してもらった記録。同年、フランスのテレビで放映された。テレビが普及しきって、映画にわざわざ行く客が減る中での質問であり、テレビとの対比で映画について話す監督が多い。
普通の意味でいうと明らかに退屈な映画だが、各監督の個性と話し方などに着目・比較したりするとけっこう面白く見られる。
まず「666」のせいか、『オーメン』のような音楽。なんの意味があるのか不明だが、テレビ用だから適当なのか?元ネタがあるのか、よくわからないが知っている方は教えていただけたら幸いです。
ともかく面白かった何名かを紹介。カッコ内は当年のカンヌ参加作品
・ ジャン・リュック・ゴダール(『パッション』)
・ ミケランジェロ・アントニオーニ(『ある女の存在証明』)
・ ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー(参加なし)
・ ヴェルナー・ヘルツォーク(『フィッツカラルド』)
・ スティーヴン・スピルバーグ(『E.T.』)
トップバッターはゴダール。最初人を喰った態度だが、しゃべりだすと、映画とテレビについての比較を小論文のような精度で語りだす。10分近くしゃべったのはこの人とアントニオーニだけか。この人が明晰なのは、すでに見えている過去のことを話しているからでもある。その辺もわかっていて、「映画の現在・未来」については決して話さず、意味深なことを言って帰っていく。
アントニオーニ
今思いつくことをとにかくしゃべるアントニオーニ。いい映画を撮る人がいいしゃべり手ではないのは別に当たり前だが、要領を得ない話をこんなに長くするのはある意味面白い。真面目にしゃべっているんだとは思う。会議とかにいたら同席者をイライラさせるタイプ。
1分くらいしゃべって帰るファスビンダー。たいした内容のある話もしていないが、話始める前に『オーメン』風の音楽がかかる厚遇。この年37歳で死去している。合掌。
ヴェルナー・ヘルツォークはこの年、映画史に残る傑作『フィッツカラルド』でカンヌに参加(監督賞受賞)。その余裕からか身構えがなく、「答える前に、脱がないと」と靴ひもをほどき、裸足になる。質問に対しては一番ストレートな返答をしている。映画は滅びないし、映画にしかできないことがあるという主旨の発言。納得。このときから40年近くたっているが、映画はいまだに一番凝集力のある芸術表現だと思う。
ヨーロッパの予算貧乏監督たちと違って、スピルバーグは基本ずっと予算の話をしている。この年『E.T.』で興行記録塗り替え。これに対してヨーロッパ映画は基本的に金がかけれない映画である。ゴダールが典型で予算のなさをエスプリでカモフラージュする。ヘルツォークは例外。予算超過の映画バカで、『フィッツカラルド』とかは船がアマゾンで山越えするくらいなので、めちゃめちゃ金かかってると思われる。
他の監督、フィリピンの監督の発言とか短いけど印象的、最後はトルコの監督の比較的まとまりあるコメントで終わります。映画監督もタイプが全然違うというのはなんとなくわかるので、興味ある人には面白い作品。
2020年2月現在U-Nextで見れます。