メナーデのドイツ映画八十八ケ所巡礼

メナーデとは酒と狂乱の神ディオニュソスを崇める巫女のことです。本ブログではドイツ映画を中心に一人のメナーデ(男ですが)が映画について語ります。独断に満ちていますが、基本冷静です(たまにメナーデらしく狂乱)。まずは88本を目指していきます。最近は止まっていましたが、気が向いたときに書いております。

『666号室』 映画監督観察フィルム

1982年、西ドイツ、フランス合作

ヴィム・ヴェンダース監督作品。出演、ゴダールスピルバーグファスビンダーヘルツォーク、アントニオーニ他の映画監督たち。

 

ベルリンのリュミエール/ 666号室 デジタルニューマスター版 [DVD]

ベルリンのリュミエール/ 666号室 デジタルニューマスター版 [DVD]

  • 出版社/メーカー: 東北新社
  • 発売日: 2006/08/25
  • メディア: DVD
 

 

ヴィム・ヴェンダースが1982年のカンヌ映画祭に際して、集まった映画監督たちに「映画とは、失われつつある言語で、死にかけている芸術か?」という問いかけを行い、滞在ホテルの666号室にて各人に10分間以内で話してもらった記録。同年、フランスのテレビで放映された。テレビが普及しきって、映画にわざわざ行く客が減る中での質問であり、テレビとの対比で映画について話す監督が多い。

 

普通の意味でいうと明らかに退屈な映画だが、各監督の個性と話し方などに着目・比較したりするとけっこう面白く見られる。

 

まず「666」のせいか、『オーメン』のような音楽。なんの意味があるのか不明だが、テレビ用だから適当なのか?元ネタがあるのか、よくわからないが知っている方は教えていただけたら幸いです。

 

ともかく面白かった何名かを紹介。カッコ内は当年のカンヌ参加作品 

・ ジャン・リュック・ゴダール(『パッション』)

・ ミケランジェロ・アントニオーニ(『ある女の存在証明』)

・ ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー(参加なし)

・ ヴェルナー・ヘルツォーク(『フィッツカラルド』)

・ スティーヴン・スピルバーグ(『E.T.』)

続きを読む

恋するイケメン・ゲーテ 『ゲーテの恋』 2010年ドイツ映画

一言で言うと 

若いイケメン・ゲーテが、田舎町の美しい娘と恋に落ちるが、泣く泣く諦める話。

f:id:callmts:20200218195708j:plain

ゲーテの恋』ヒロインのシャルロッテ役:ミリアム・シュタイン。映画より。

 

作品情報

2010年ドイツ映画、原題 „Goethe!“

監督:フィリップ・シュテルツェル、出演:アレクサンダー・フェーリング、ミリアム・シュタイン、モーリッツ・ブライプトロイ

ゲーテの恋 ~君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」~ [DVD]

ゲーテの恋 ~君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」~ [DVD]

  • 出版社/メーカー: ギャガ
  • 発売日: 2020/01/08
  • メディア: DVD
 

 

一応伝記映画といえる。ゲーテがベストセラー『若きウェルテルの悩み』を書くにいたった経緯がわかる。ただし、各人物の詳細や人間関係、時間の前後などについては変更されたり脚色されたりしている。イケメンなゲーテのイメージ映画として観るぶんには問題ない。誰でも楽しめる作品だと思うが、とくに美男美女(の悲恋)が好きなひとにオススメである。

 

続きを読む

ドイツ映画『ピエロがお前を嘲笑う』 ハリウッドでリメイク予定。Netflix 『ダーク』監督バラン・ボー・オダーの出世作。未見の方は是非笑われてください。オススメ。

2014年ドイツ映画、『23年の沈黙』のバラン・ボー・オダー監督商業映画第二作目。

原題は„Who am I - Kein System ist sicher“(ワタシハダレ−−安全なシステムはない) 

邦題は劇中のセリフから。

ピエロがお前を嘲笑う [Blu-ray]

ピエロがお前を嘲笑う [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: TCエンタテインメント
  • 発売日: 2018/06/27
  • メディア: Blu-ray
 
  • 1 基本情報(ネタバレなし) 
    • 映画の始まり
    • 登場人物紹介 ハッカーチーム
    • 前半は、青春活劇。後半は「転」また「転」の展開
    • 豆知識
  • 2 監督、脚本家インタヴュー記事紹介 ネタバレもあり
    • インタヴュー パート1 ネタバレなし ドイツ映画の中での本作、ハッカー映画としての工夫、俳優の取り組み
    • インタヴュー パート2 ここからネタバレあり 参照している別の映画 『ピエロ・・・』の解釈について 
    • インタヴューも踏まえて補足
    • インタヴューも踏まえて見直し
      • 整理① 映画の中で確実に実際に起こっていること(現実的な記録が残っているだろうこと)
      • 整理② 最後のシーン 
      • 整理③ マリー関連シーン検討
      • 整理④ 多重人格演出
      •  『 ファイト・クラブ』を連想させる箇所
    • まとめ

 

1 基本情報(ネタバレなし) 

オダー監督は1978年生まれの比較的若い監督でスイス出身、ドイツ育ち。ミュンヒェンの映画学校卒業後、『23年の沈黙』で注目され、本作が出世作。本作はドイツでヒットして各種映画賞を受賞。ワーナー・ブラザーズがリメイクの権利を買い取っている。未見の方はリメイクが出る前に是非ごらんください。以下、簡単に紹介します(ネタバレなし)。

映画の始まり

主人公のベンヤミン・エンゲルが捜査室のようなところで自白するシーンから始まる。観客は彼が何か事件を起こし、人が死に、彼が捕まったことを知らされる。ハッカーの彼は自らの生い立ちを、そして事件にいたる経緯を振り返っていく・・・

 

パッケージとタイトルからサイコ・スリラーっぽいものという印象を与えるかもしれないが、青春映画×クライム・トリック・サスペンスといった感じで、どちらからでも楽しめます。

話の構成は起承転結でいうと、起承転転転完といったつくり。

 

続きを読む

心理劇としては弱いが・・・音、構図、演技の素晴らしさは見る価値大! 『23年の沈黙』 バラン・ボー・オダー監督作品

2010年、ドイツ映画

バラン・ボー・オダー監督、出演:ヴォータン・ヴィルケ・メーリング、ウルリク・トムセン、ゼバスティアン・ブロームベルク

23年の沈黙 [DVD]

23年の沈黙 [DVD]

  • 出版社/メーカー: オンリー・ハーツ
  • 発売日: 2011/05/27
  • メディア: DVD
 

 ストーリー 

「13歳の少女が失踪し、麦畑で自転車が発見された。23年前の同じ日、同じ場所で、自転車に乗った11歳の少女ピアが暴行され殺されていた。事件は未解決のままだったが、元警官クリ山は、同一犯の仕業と確信して捜査に乗り出す。一方、23年前ピアが殺害されるのを傍観していたティモは、町を逃れ名前を変え、すべてを封印して幸せな家庭を築いていたが、今回の事件で忌まわしい過去に引き戻される。吸い寄せられるように町に戻ったティモは、ピアの母親の元を訪ねる・・・」(DVDパッケージより)。

 

映画のつくり

冒頭10分弱で、23年前の事件の様子が映され、犯人ペア・ゾンマーと犯行を見ていたティモ・フリードリヒの様子が映っている。その後、現在の事件が起こり、上のようなストーリーが展開されていく。

現在の事件の犯人と、23年前の事件の真相に、ティモの回想が織り込まれるかたちで次第に迫っていく構成。同じことの反復なのか、違うのか、反復なのだとしたらなぜなのか・・・といった謎と徐々に明らかになる秘密に目が離せなくなる。

 

音、画面、切り替えの巧みさ

ショッキングな映像はほとんどなく、音と構図、役者の演技のみで引き付けていく力量はなかなかすごいものである。

この映画で緊張感を高めるのは大体音楽。子供達のエコーにミステリアスなアンビエント音や緊迫音、ピアノの旋律と過去シーンでのベース音など、全部スタンダードをはずれないなものだと思うが、どれも非常に効果的。

画面の効果は、上からの構図、運転者が見えない車の構図、うすら寒い事件とは対照的な自然、構図の反復などによってうまく作り出されている。

電話やメモ帳などを媒介にした場面切り替えもうまい。

 

続きを読む

今更ながら 『ヒトラー 最期の12日間』人物整理プラスアルファ

2004年ドイツ映画 原題 „Der Untergang“ (『没落』)

オリヴァー・ヒルシュピーゲル監督、ブルーノ・ガンツ主演

 

ヒトラー 最期の12日間 [DVD]

ヒトラー 最期の12日間 [DVD]

  • 出版社/メーカー: ギャガ
  • 発売日: 2015/07/02
  • メディア: DVD
 

 

ユーチューブでいじられまくってることでも有名なヒトラーのわめくシーンでおなじみのこの映画について書きます。『帰ってきたヒトラー』や『アイアン・スカイ』でもパロディがみられます。

 

本記事では、主に映画の重要登場人物について整理しています。莫大な数の人物が出てきますが、映画内では最低限の説明しかされないので、混乱する視聴者も多いと思います。見る前、見た後の整理用に参考にしていただければ幸いです。今回ネタバレはないように記述しています。

 

続きを読む

ドイツから映画ニュース 2020年2月14日付 ロマン・ポランスキー、アルメニア虐殺

ロマン・ポランスキーの「フランス映画界のアカデミー賞」(セザール賞)をめぐって。以下引用

 

ポランスキーをめぐる論争の後で:ツェザール・アカデミー首脳部が退陣

映画監督ロマン・ポランスキーをめぐる論争を背景に、フランス・セザール映画賞を授与しているアカデミー指導部が退陣することを予告した。ポランスキーの『私は弾劾する』が、ツェザール賞候補にノミネートしていた。すでに11月のプレミア上映の際に抗議が起こっていた。ポーランド・フランスで活動するポランスキー監督については新たなレイプ非難を受けて、多くの女性が映画館の入り口をブロックしていた。」

 

引用元 Deutsche Welle (14. 2. 2020)

https://www.dw.com/de/14022020-langsam-gesprochene-nachrichten/a-52375962

 

セザール賞はフランスにおけるアカデミー賞として知られ、優れたフランス映画に与えられる。ポランスキーはこれまでも多数の作品が受賞してきた常連。

『私は弾劾する』(英語タイトルは『将校とスパイ』)はドレフュス事件を題材としている作品ということで、興味深く、ポランスキーへの判断はともあれ、映画は見てみたい。ポランスキー作品では個人的には『マクベス』が印象深い。

 

Deutsche Welleはドイツ語学習者向けの教材が多数あることでも有名なドイツの放送局。この日のニュースは他に

・コロナ・ウィルス武漢域で感染者数引き続き激しく増加

・ドイツ経済2019年末は停滞

・シリア政府、アルメニア人大量殺戮を、民族虐殺と認定

アメリ法務大臣、トランプのツイートに抗弁

・アマゾン、10億ドルのペンタゴンとの契約をめぐる闘争で法的勝利を狙う

・ドイツ大統領、ミュンヒェン安全保障会議開幕

でした。

 

アルメニアの話はファティ・アキン監督が映画にしてますが、オスマン・トルコ時代のアルメニア人大量殺戮をめぐるものです。

消えた声が、その名を呼ぶ [DVD]

消えた声が、その名を呼ぶ [DVD]

  • 出版社/メーカー: Happinet(SB)(D)
  • 発売日: 2016/07/02
  • メディア: DVD
 

 

アキン作品については過去記事でもふれてます。

 

callmts.hatenablog.com

 

 

 

 

無垢なナチス少女が汚れた世界へ向ける陰鬱なまなざし 『さよならアドルフ』 原題 Lore

『さよならアドルフ』

2012年、オーストラリア、ドイツ映画、原題 „Lore“(『ローレ』(主人公の名前))

ケイト・ショートランド監督(オーストラリア人)、サスキア・ローゼンタール主演 

 

さよなら、アドルフ [DVD]

さよなら、アドルフ [DVD]

 

 

イギリス人作家レイチェル・シーファー(オーストラリア人、ドイツ人の間に生まれた)の小説集『暗闇の中で』の一編「ローレ」を、オーストラリアの監督ケイト・ショートランドが映画化。アマゾンプライムビデオで視聴可能。

 

あらすじ(中盤まで)

第二次大戦末期ドイツ敗戦直前から映画ははじまる。主人公ローレの父はナチス将官で、脱出の準備をしている。最初の逃亡先で父が捕まり、母も出頭しいなくなる。残されたローレは、妹と双子の弟、小さな赤ん坊を連れて、祖母のいるハンブルクへ向かう・・・

 

どんな話か

話の細部には触れずにどんな話か一言でいうと、何のためらいもなく「ハイル・ヒトラー」で挨拶していたナチスの少女が、両親の罪、ナチスの罪、および人間の罪を知る中で、ナチスおよび自分の「無垢さ」と決別する話である。

 

邦題では、一度もでてこない「アドルフ」の名があがっていて、最終的にはアドルフ・ヒトラーのアドルフだとわかるが、これは完全にミスリーディングなタイトル。

父が「断種法」に関わっていたナチス将官であったという背景、敗戦と同時にこれまでのナチス世界がくつがえったというナチス的モティーフはもちろん重要だが、中心は少女が「無垢さ」に別れを告げるまでの変化にある。別にナチスを背景にしなくても話としては成立させられる。

 

その意味ではタイトルをつけた人間の見識とセンスを疑わざるをえない。『ローレ』ではなんだかわからないから・・・というありがたい配慮なんだろうが、観客をなめている。「アドルフ」を期待したら裏切られるのでご注意を。

f:id:callmts:20200214193916j:plain

ドイツ語版ポスター

 

あまり好まれていない映画

アマゾンなどでの評価は総じて低い。とりあえず好まれていない。上で書いたようなミスリードのためのがっかりもあるが、根本的には作品のトーンにあると思う。端的にいうと嫌なシーンばっかりなのである。さしあたり前半では次の2点が目立つ。

 

1 人間(大人)の嫌な部分や不快な感情を、ベタに嫌な感じに演出しつづける手法

2 食をはじめとした生の喜びが描かれるシーンがほとんどない。

 

続きを読む