メナーデのドイツ映画八十八ケ所巡礼

メナーデとは酒と狂乱の神ディオニュソスを崇める巫女のことです。本ブログではドイツ映画を中心に一人のメナーデ(男ですが)が映画について語ります。独断に満ちていますが、基本冷静です(たまにメナーデらしく狂乱)。まずは88本を目指していきます。最近は止まっていましたが、気が向いたときに書いております。

カルト映画への道半ば? 『アイアン・スカイ』月面ナチス基地映画

2012年フィンランド、ドイツ、オーストラリア映画

ティモ・ヴォレンソラ監督、ユーリア・ディーツェ主演。

アイアン・スカイ Blu-ray

アイアン・スカイ Blu-ray

  • 発売日: 2014/07/09
  • メディア: Blu-ray
 

 

ナチスの残党が月面帝国を作っていたというトンデモな設定。アメリカ大統領選のキャンペーンとしてヒラリー・クリントンを思わせる民主党候補が、宇宙飛行士として黒人を送ったところ、ナチスに囚われる。黒人がもっていたスマホを調達にナチスが地球にやってきて、いろいろあって宇宙戦争になるというストーリー。

バカ映画、知的パロディ、カルト映画など様々な評をネットで見ていたが、実際のところどんなものなのかと見てみた。

 

最初の方はそれなりに笑える

冒頭の方は、ギャグ、パロディ満載(わりとスベっている?)。CGはそんなに違和感もなく、月面のハーケンクロイツ型の基地のバカバカしさをうまく表現している。

f:id:callmts:20200307215616j:plain

ナチス月面基地。すでに1945年にナチスは月に逃れ、第4帝国を築いていた。

 

月面ナチススターウォーズのストームトルーパー風なのもいい感じ。ナチスのセリフはドイツ語で話され、いかにもな音楽と歌。雰囲気はスターウォーズだけどナチスなので多少ギャップで面白い。

ナチスはマジだけにバカだが、アメリカ大統領が送った黒人宇宙飛行士は「ブラザー」なノリなのでそこもギャップでわりと面白い。アインシュタインみたいな風貌の科学者が「死の天使」メンゲレ博士だったり小ネタもいろいろある。

 

ナチスの女性教官レナーテが主役。彼女はナチスの次期トップを狙う将官の恋人である。配役が良かったと思う。ナチス服が似合う。

f:id:callmts:20200307220611j:plain

演じるのはドイツの女優ユーリア・ディーツェ。

 

アメリカ陣営もナチスに劣らずおちょくられている。ヒラリー・クリントンを思わせるアメリカ大統領が軽薄。彼女の選挙参謀(女性)が『ヒトラー最期の12日間』のヒトラー絶叫シーンをアレンジしていたりもしている。

f:id:callmts:20200307220846j:plain

大統領選参謀を演じるのはオーストラリアの女優ペータ・サージェント。これもハマり役。

大統領が選挙のためには戦争も超オッケーだと考えていたりして多少皮肉もきいている。選挙参謀がむしろナチスと親和的で選挙にナチス手法を取り入れていく展開も、まあまあ興味をそそられる。

 

f:id:callmts:20200307215934j:plain

レナーテは選挙キャンペーンに加わる。ナチスアメリカのエロスが加わって最強に。

 

中盤でなんか普通に。

しかし中盤でレナーテがニューヨークに降り立ったのち、月面でのナチス教育の欺瞞に気づいて、地球の側にたつあたりから、ギャグ要素が弱くなっていく。普通の宇宙戦争みたいな展開になり、レナーテも髪を下ろしてウォリアー風になると全く普通である。

f:id:callmts:20200307221426j:plain

髪を下ろしたレナーテ。ハリウッド女戦士風。

 

ナチスの最終兵器はけっこう巨大でキャノン砲は月の形を変えてしまうほどの破壊力をもっている。「短小コンプレックス」の裏返しと評されるその巨大宇宙船の登場シーンはそれなりに迫力がある。にもかかわらず、アホな失敗で地球攻撃は不発に終わる。ここは制作費が足りなかったのかド派手なシーンは尻すぼみ。アホな失敗もそんなに笑えない。

f:id:callmts:20200307222534j:plain

右は選挙参謀。才能を見込まれて地球防衛軍を指揮している。

 

5点満点で出来を評価するなら

バカ3/5 ギャグ(パロディ)3.5/5  エロス2.5/5  CG3/5 

くらいだろうか。役者は演じ切っててよいと思います。

 

思ったより普通にみれるが、ぶっちぎったところが結局ないままというのが寂しい。それなりによくできている分、心からバカだと笑えない。

 

制作費の面から

監督ティモ・ヴォレンソラはフィンランドの映画監督。フィンランドで作られていたスター・トレックのパロディーシリーズ、『スター・レック』に出演するなどしてきた。2005年には監督として映画を撮っている。

こちらは制作費134万ドル(2005年時点で1億4600万円)と、かなり低予算。

https://en.wikipedia.org/wiki/Star_Wreck:_In_the_Pirkinning

 

アイアン・スカイ』は、2006年に企画がはじまり、カンヌ映画祭などで予告編を上映して制作会社を募り、クラウドファンディングなどもフル活用して映画ファンからは1億円ほど集めた。最終的には750万ドル(2012年当時6億円)を調達して制作している。

 

例えば同年のバットマンシリーズ『ダークナイトライジング』の2億5000万ドル(200億円)などに比べるとものすごい安くみえる。しかし、日本映画だと制作費の上限がだいたい10億円と言われるし、同年カンヌのパルムドール受賞のミヒャエル・ハネケ監督『愛・アムール』の890万ドル(7億1000万円)に比べても、ジャンルが違うとはいえ、それほど低予算でもない。

 

 日本映画は制作費は公表されていないことが多いが、2008年の紀里谷和明監督の『Goemon』は制作費900万ドルと公表されていた。

GOEMON [DVD]

GOEMON [DVD]

  • 発売日: 2009/10/09
  • メディア: DVD
 

これと比較してみると『アイアン・スカイ』は例えばCGはムラがすくないし、実写部分とのまとまりもよい。ゴエモンの方は、町や城までCGだが、映像が一昔前のプレイステーションみたいである。アクションもプレイステーション感がちょっとあってカクカクして違和感があるシーンも目立つが、アイアンスカイより見せ場の数は多い。奇抜な衣装なども含め、信長が西洋中世騎士のフルアーマーで現れるなど、異様な戦国ファンタジー世界観が打ち出されていて、いいか悪いかは別としてそれなりにインパクトがある。下手くそなだけとも言えるが、こっちの方が変なつくりの映画である。どうせキッチュなら、このくらいの方がいいのではないかという印象をもった。

まとめると『アイアンスカイ』はわりと普通に仕上げられている。ただ、そうであればハリウッドのを見ればいいという話になるので、どうせならもっとバカな方向に走った方がよかったのではないかと思われる。

 

アイアンスカイもゴエモンもU-Next無料会員登録で視聴可能。暇な方はどうぞ。

 

未見だが、次作は予算もアップして、ジュラッシクパークをパロっているらしい。こちらもいずれ見てみたい。