メナーデのドイツ映画八十八ケ所巡礼

メナーデとは酒と狂乱の神ディオニュソスを崇める巫女のことです。本ブログではドイツ映画を中心に一人のメナーデ(男ですが)が映画について語ります。独断に満ちていますが、基本冷静です(たまにメナーデらしく狂乱)。まずは88本を目指していきます。最近は止まっていましたが、気が向いたときに書いております。

完璧なモラハラ夫 ファスビンダー『マルタ』

『マルタ』原題も„Martha“ 主人公の名前である。苗字ではない。

 

ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督作品で劇場上映ではなくテレビ映画(1974年)

 

 

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演じるのはMargit Carstensen カールステンセンはファスビンダー作品の常連で大体酷い目に遭わされる(涙)

象徴的なのだが、父とローマを旅行中に、その優しい父が急死して、マルタが狼狽する中で財布まで盗まれる。楽しい旅行からの全くの無力。

 

 

大使館にかけこんでなんとかしようとする中、「運命の男性」とすれ違う。遭遇のシーンは必見。

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役者はこれまた常連 Kahlheinz Böhm いつも「搾取者」のナイスミドル

 

なんとか故郷へ戻った後で、この男と再会して結婚する。マルタはプロポーズされ涙する。

 

以下ネタバレも多少あり。見ても映画は楽しめると思います。

 

結婚後が作品の本体。マルタの結婚は安寧を約束されたゴールではなく、地獄の始まりである。荒っぽくまとめると、この男が今でいうモラハラ男でマルタを思い通りの妻へと「調教」して苛んでいく。

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新婚旅行にて

 

マルタは司書をしていて、教養もある育ちの良い女性である。父がいたならば経済的にはたぶん働かなくてもよいだろう、いいところの「娘さん」(アラサー)であった。

マルタは結婚後は仕事も禁止され、性的な強要も受、好きな音楽も聞けずに憔悴していく。

 

文化的な「劣位」にさらされるときの惨めさを演出してファスビンダーの右に出るものはいない。

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自由の代償』から ファスビンダー演じる主人公がブルジョワ家庭で食事をするシーン。

 

マルタを否定した後のヘルムートがみせつける「優位」は、人間の平等を前提とするなら、常軌を逸している。

 

当時はモラル・ハラスメントという言葉はなかったと思われるが、ヘルムートはすでに完璧なモラハラ男である。金もあって「趣味も良い」だけに完璧である。「こうするのが当たり前なのだ」「私の感覚が普通でお前の感覚は劣っているのだ」という「教育」の残酷さを完璧に提示している。

 

ファスビンダーは『マルタ』や『自由の代償』で、人が人に対して絶対するべきではない些細だが絶対的に非人間的行為を提示している。反面教師である。演出は非常にわかりやすく教育的といっていい。

 

日本ではソフト化されていないが、昨年早稲田松竹でやっていた。

wasedashochiku.co.jp

 

ファスビンダー作品は今でもファンも多く、どこかでたまに上映されてるので、みつけたら必見!

 

ソフトを買うならアメリカ版が英字幕つきなのでオススメ。 

FASSBINDER COLLECTION 2

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  • 出版社/メーカー: Fantoma
  • メディア: DVD
 

 『マルタ』と『13回の新月のある年に』の二枚組

 

ちなみに『自由の代償』はモラハラだけにとどまらない残酷な名作

 

自由の代償 [DVD]

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 いずれこれについてはまた書きます。

 

ちなみにファスビンダー自身は実生活では大体において「搾取者」だったというような噂もある。だとすると映画で贖罪しているのかと思われるが、どうなんだろう。興味がつきない人物です。

 まだ読んでいないが、こんなのが出ています。

ファスビンダー、ファスビンダーを語る 第 1 巻

ファスビンダー、ファスビンダーを語る 第 1 巻