UFO番組的ヒトラー・ハンティング 『ヒトラーを追跡せよ 浮かび上がった亡命説』
原題 “Hunting Hitler“ ヒストリーチャンネルで放映
現在アマゾンプライムビデオで視聴可能
アマゾンプライムでの番組紹介
2014年にFBIが機密解除した700ページ以上の文書。そこには、第二次世界大戦のナチス政権崩壊後もアドルフ・ヒトラーが生存し続け、南米へ逃亡した可能性があることが記されている。新たに発見された手がかりや最新技術を駆使して、ナチス帝国崩壊後のヒトラーの足取りを辿ってゆく。
『ヒトラーを追跡せよ』の第1話ではだいたいこういう話が展開される。
「ヒトラーの死体が厳密に確認されたとは言い切れない」「スターリンも死体についてぼかしていた」・・・「ヒトラーは逃亡していたのではないか」、「実際FBIでヒトラーの逃亡を仮定して捜査していた」→ 「FBIが探していたということは探すに価するものがあった」「アルゼンチンなどで多くの目撃証言がある」。「やはり、逃亡していたと考えて捜査すべきだ」云々。
『ヒトラーを追跡せよ』にみられる話の展開は基本的にMMRの論理である。
MMRとは『週刊少年マガジン』連載の漫画である。少年向けのライトな『ムー』である。
「MMR」の論理
MMRはだいたいこんな感じである。
NASAが宇宙人(リトル・グレイ)との接触情報と思われるものを隠していた。実際、謎の光を見たという証言がノース・カロライナ州の牧場であった。そこに隠すべきなにかがあったのではないか。リトル・グレイとの交流情報はネバダ州にもあって、そこでは謎の失踪事件も多発していた。これは、リトル・グレイが人体の解剖調査をしていたということではないか。ノース・カロライナでも失踪ケースがあることがわかった。NASAはこの恐ろしい事実を実は知っていて、容認しリトル・グレイと取引をしていたのではないか。この恐るべき取引の痕跡を消すためにNASAは接触を隠さなければならなかった。そう考えるとすべてが符合してくる・・・
理性のタガのはずれた論理だが、少年たちを釣るにはこのくらいで十分なのだろう。
世代でもないので知らないが、『ムー』はたぶんこういった話のオンパレードなんだろう。
「合図」や「秘密のしるし」さえあれば、信じられるタイプの人間はどのくらいの割合でいるのか不明だが、こういう番組が作られている以上、それなりにいるんだろう。それとも、これはそういう思考を笑うためのネタなのか、ちょっと理解に苦しむ。
ナチス+南米=エキゾティク・オカルト・オーラ
南米にはドイツ人移民がかなりいて、それらの移民を起点とした壮大な夢を見る者がいた。例えばフリードリヒ・ニーチェの妹エリーザベトの夫ベルンハルト・フェルスターもパラグアイに「新ゲルマーニア」を建設すべく移住、失敗して自殺している。アドルフ・アイヒマンはアルゼンチンに逃亡、アウシュヴィッツで人体実験を繰り返して「死の天使」の異名をとったヨーゼフ・メンゲレはブラジルに逃亡している。
南米とナチス・ドイツの組み合わせは猟奇の血を騒がせる。『ヒトラーを追跡せよ』が残念なのは(第1話しか見ていませんが)、ビンラディンとヒトラーを「極悪のテロリスト」として並列するやりかたにも見られるように、歴史を紐解けば面白いはずのものを使わずに現代の感覚から、ナチスがおぞましいみたいな印象を述べるにとどまる点である。そのため捜査員の発言が白々しく、エキゾチズムの楽しみもでてこない。とはいえ、「特殊部隊軍曹」がフォーカスされて喋り出すシーンは絵的には一々面白い。
アルゼンチンで地下壕を探索するシーンはけっこう笑えるが、45分みてこれがピークだと、けっこうきつい。もう少し笑える展開があれば楽しめるのだろうに。
南米+ナチスものだと「死の天使」エンゲルがヒトラーのクローンをつくっていた・・・というこれが有名。
UFO番組であれば、このくらいの荒唐無稽さがほしい。
ヒトラーの死の定説
ヒトラーの最後については、銃で自殺したあと、死体ををソ連兵に陵辱されないようにという遺言のもとガソリンで焼き払ったと証言されている。『ヒトラー最後の12日間』に該当シーンあり。焼死体に残った入れ歯痕から、死体がヒトラーのものだったことも確認されている。
なので、逃亡説をまじめにとなえるなら、定説のどこがどう間違いかの論駁から始める必要があるが・・・そんなまじめなものではないのでしょう。
一言で言うと
ということでその筋のマニア以外は見なくてよいものと思われます。
本当の楽しみ方をご存知の方はご教示いただけたら幸いです。