メナーデのドイツ映画八十八ケ所巡礼

メナーデはディオニュソスの巫女です。本ブログでは主にドイツ映画を巡礼します。独断に満ちていますが、冷静を心がけます(たまに狂乱)。まずは88本を目指していきます。

オススメ作品 ドイツ映画『希望の灯り』 スーパーマーケットの従業員たちが、二時間観客の目を引き付ける

2018年、ドイツ映画。 原題は„In den Gängen“(通路にて)

原作は旧東ドイツ出身のクレメンス・マイヤーの短編小説「通路にて」

監督トーマス・シュトゥーバー、主演フランツ・ロゴフスキ、ザンドラ・ヒュラー

 

 

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旧東ドイツに位置するライプツィヒ近郊のスーパーマーケットが舞台。在庫管理係の新人で無口なクリスティアンを中心に、教育係のブルーノ、菓子部門勤務のマリオンらとの間に起こる交流を淡々と描いていく。

 

マリオン役は『ありがとうトニ・エルドマン』主演のザンドラ・ヒュラー出演

主演のフランツ・ロゴフスキは本作でドイツの各映画賞を受賞。

 

 

本記事では、ネタバレにならない程度に内容と映画の見どころを紹介します。

 

原作との「語り」の違い

原作「通路にて」は主人公が語り手の一人称小説で、「ハト」のエピソードから始まり、なぜスーパーで働き出したが語られていく。 一言でいうと、自分語りをして色々と説明してくれる小説である。

夜と灯りと (新潮クレスト・ブックス)

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これに対して映画では、この若い新人は最初ほとんどしゃべらず、映画の画面からも若い無口な暗めの青年である印象を得るのみである。観客は何も説明らしい説明をされないが、次第に何か過去にあるということがほのめかされ、「過去」と彼の素性への注意を否応なしに集めていく。

 

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左:クリスティアン 右:ブルーノ

 

ブルーノの存在に安心する。

開始後しばらく、このまま淡々とセミ・ドキュメンタリーのような展開が続くのかと思っていると、「ホッとする場面」が入り込み出す。教育係のブルーノは最初つっけんどんな感じだが、クリスティアンの無口な感じを気に入ったのか、距離を縮める。ブルーノとクリスティアン、二人の距離が縮まるシーンは、どこかで見たようなスタンダードで安心する演出になっている。「謎」一辺倒で引っ張るのではなく、緩急をつけるところが映画の優れた点である。

 

マリオンという新たな謎

クリスティアンが次第に受け入れられてくるのにホッとしはじめたところで現れるのがマリオンである。

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クリスティアンとマリオン

マリオンを演じたのは『ありがとうトニ・エルドマン』で無類の演技を見せたザンドラ・ヒュラー。本作でも生意気さと洒脱さ、もろさと影を併せ持つマリオンを巧みに演じている。『トニ・エルドマン』は評価が分かれているが、明らかに名作。アメリカ版でリメイクの企画がある。

 

callmts.hatenablog.com

 

 

ほとんど閉店後のスーパーマーケットだけを舞台にして、映画の前半はじっくり登場人物たちを描きだしていく。ちょうど真ん中あたりから、事件らしいものが展開し、それぞれの過去、そして現在が明らかになっていく。

 

 旧東ドイツの人たち

ブルーノと彼の同年代の中年以上の人々については、少ないセリフから人物像がうっすらと分かるように描き出していて、これも上手いところである。この映画は、完全に「東ドイツもの」というわけではないが、「旧東の人の現在」の一端を伝えるものとして興味ぶかい。映画で「東ドイツ」が扱われる場合、ひと昔前は大抵、シュタージ(秘密警察)か西側への亡命がテーマだった。東ドイツ出身の人に会った時に、『グッバイ・レーニン』の話をふると、「あれは西の連中の作った映画だ」と吐き捨てるように言っていたのを思い出す。この映画は原作者同様、監督トーマス、ステューバーもザンドラ・ヒュラーも旧東ドイツ出身であり、旧東出身の「その辺にいる人々」に焦点をあてる最近の傾向を代表しており、その意味でも注目である。

 

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従業員たち

 

 

完璧ではないが・・・すぐれた作品

映画としては良作だが、完璧ではないように思う。もちろん別に完璧でなくても、いい映画はいい映画なのだが、もったいない点があると思う。たとえば音楽。途中までは実際にスーパーでかかっている音楽だけがBGMになっているという程で理解できた。冒頭で、閉店後に似つかわしくない『美しき青きドナウ』が流れるのも音楽担当店員のかけているものと理解できる。「フォークリフト」のくだりでかかる『easy』なども効果的。だが、後半に入ったあたりから、なくてもいいだろうBGMが鳴っていたりして、前半こだわっていたように見える演出が活かせていない。

 


Son Lux - Easy

 

 

他にもスタイルの一貫性がしばしばなかったり、思わせぶりなだけに終わっているように思われるシーンもある(コーヒーの自販機前でのクリスティアンの視線などは、彼の対人関係の距離が普通ではないことの表現としてあるように思ったが、後半ではそういった人物ごとの視線の差異への「こだわり」はない)。

 

とはいえ、たとえばウルリヒ・ザイドルのようなセミ・ドキュメンタリー風スタイルで一貫させる映画とは違って、圧倒的に見易く、誰でも見れる映画になっている。この点はやはりいいところだろう。監督は比較的若く、今後さらに注目。

 

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作品賞、主演俳優賞、助演俳優賞など各種受賞した。

 

ということでおすすめの映画である。

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上述のザイドルは、敷居が高いが凄い映画を撮る監督なので、また紹介したい。

 

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